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第2回 きくち雄一監督談

きくち雄一監督

「メタフィールド」という発明

――『ウルトラマンネクサス』は、シリーズ初の全編ビデオ撮影による作品でしたが、どんなご苦労がありましたか?

『ウルトラマンコスモス』も、本編はビデオになっていたけど、特撮はフィルムだったんですよ。やっぱり一番痛かったのは、従来のハイスピードを使えなくなったことですね。それまでのウルトラマンって、テレビ放送に合わせて1秒30コマで撮影してたんです。で、そこにハイスピードを掛けて重量感を狙えたりしてたんですが、当時のカメラだと60コマまでしか上げられなかった。たったの2倍ですね。それだと爆破や火薬のカットが、以前のようには撮れないんですよ。よく石膏で作ったビルとか怪獣の爆破人形に火薬を仕込んで、ドーン!と爆発するさまをハイスピードで撮ったりするんですけど、フィルムでは5倍、ときには10倍も上げて撮れていたのが、急に2倍までしか撮れないと。それだと一瞬で終わっちゃって、爆発の現象を全然捉えきれないんです。それに今は違うと思いますけど、当時はちょっと火薬が発火すると画面が真っ白に飛んじゃう。極端な話、綺麗なビルが次のコマで真っ白な画面になり、その次のコマではもうない……みたいな感じです。爆破って、肉眼では一瞬だけど、3倍、4倍以上のハイスピードで撮ることで鮮やかに発火して飛び散る様子が見えるようになるんですよ。まあ、メタフィールドでは石膏ビルを使わなくてもいいんですけど、ハイスピードが生み出す重量感や空気感ってあるじゃないですか。それができず、2倍以上は編集でコマ伸ばしをするしかないっていうのはキツかったです。そういう意味では、後半で初の市街地戦(Episode.34「封鎖 -A.D.2009-」)がありましたよね。あのときも石膏ビルはやってなくて、建設途中のビルにネクサスが倒れてきて崩れるっていうシチュエーションから試してみて、そこからちょっとずつ火薬を入れたらどうかな?って失敗しないよう試行錯誤を重ねていったんです。だから、このときもフィルムで撮れてたら、また違った画作りをしていたと思いますよ。現場で火薬を使っても思うような画が撮れないのであれば、敢えて火薬は使わず、合成で処理したほうがいいのでは? そんなふうに頭を使いました。でもビデオ撮影になったことで、その場で撮ったものが、すぐにプレビューで観られる。で、ダメだったらもう1回撮ろう!みたいな判断ができるようになったのは利点でしたね。今では普通のことですけれど。

――先ほど、ちょうど話に出てきましたけど、『ネクサス』ならではのシチュエーションとして、メタフィールドでのバトルが挙げられましね。

そもそもバジェットの問題で、『コスモス』のときよりもステージを狭くしなきゃいけないという事情があったんですね。具体的な大きさは忘れちゃいましたけど、青空に雲が描かれているホリゾントも畳1畳分だか2畳分だか狭かったと思います。もちろん、床の平台の面積だって狭くなった。そういったなかで、どういうセットを組んで撮っていけば、しっかりした作品に仕上げることができるのか? メタフィールドという新しい要素が、とにかく難題でした(笑)。いつものように青空があって、街や山の飾りがあって、そこで戦うということであれば、セットが狭くなってもまだ気が楽だったと思います。

――過去の遺産として、ビルや山の飾り自体は残ってたんですよね?

作品に入る前の段階では、以前のビルは残ってないので、そんなに飾れないっていう話だったんですよ。20年前のことだから、ちょっと詳しくは憶えてないんですけど、でもネクサスは異空間で人知れず戦うウルトラマンだから、別にビルがないならないでいいじゃんと。

――なるほど。メタフィールドといえば、オーロラの空と岩場みたいなイメージがありますけど、場合によっては無人の街みたいな方向性もあり得たわけですね。

だからメタフィールドをどういう空間、ステージにすればいいんだろうなっていうのが、僕にとっては一番の難題だったんですよ。ただ、これもバジェットが関係してるんですが、『ネクサス』のホリゾントには雲を描くことができなくて、ただ単に青いグラデーションがかかっただけのものだったんです。だったら、それを活かしてライティングで雲を作っちゃおうという発想ですよね。あれで雲が描かれていたら、オーロラとか作らなかったんじゃないかなぁ。ちなみにさっきも話した市街地戦のときは、東京でも雲のない青空の日はあるからいいだろと割り切りました(笑)。

――あのオーロラって、合成は使ってなかったですよね。

はい。ホリゾントにオーロラを映し出して、現場で撮ってます。ホリゾントにグリーンを張っちゃって、背景を全部合成にするという案もあるにはあったんですけどね。今はリアルタイムで楽に合成できたりしちゃうじゃないですか。でも当時はそんなノウハウもないし、合成カット数にも制限ありますから、テレビシリーズの体力的に無理でした。ほとんどのカットは撮影所のセットの中で撮りきりにしないといけなかった。背景を合成にしたことでポスプロ(仕上げ)の負担が増えるようだと、あとで首を絞める事になりますから。まあ、総合的な作業効率を考えるわけです。岩場のセットなら現場の作業カロリーを抑えれるかもしれないけど、普通の岩場だとつまらない。だから空間自体が息づいてるというか、光が呼吸してるような感じにしたくて、ああいう感じの空と岩にしてみたんです。本当は岩場自体がフワッと光って、息づいているようにしたかった。それはできないけど、せめて空が息づいて見えるよう、オーロラや空の光を動かそうと。

――あれは水を自動で揺らしてゆらめきを作り、そのゆらめきにライトを当てて、ホリソントに反射させているわけですよね。

装置がどういう設計だったかは忘れちゃいましたが、照明部が制作したと記憶してます。スイッチポンしておけば、そこにスタッフがいなくても電動でオーロラが動いて、スピードも変えられるようなシステムでした。

――手動だと、そこにまた人員を割かなきゃいけないですもんね。

あとはセットの空気感が足りないので常にフォグを流し、ずっと煙が流れてるような感じにしましたけど、あのときはそれで精一杯でしたね。「みんな、なんかいい案ある?」って訊いても、誰ひとり答えられなかったし(笑)、もうやりながら考えていくしかなかったんです。ただ、ああいうふうに光がふわふわと揺らめいてるところなので、どっちからキーライトが当たってるとかあまり気にせず撮れちゃうやり易さもあったんですよ。そのカットがカッコよければいいですって感じ。だから、ポンポン撮っていけましたね。

――確かにメタフィールドのシーンを観ていて、画が繋がってないみたいな違和感はなかったですからね。

常に光が動いて煙が流れている空間ですから、光の繋がりとかあまり気にならないんですよ。カットバック(異なる場所のカットを交互に見せていく手法)の切り返しを撮るときでも、大きく飾りを変えたりライティングを直したりしなくても、同じ方向でどんどん撮っていける感じ。でもまあ、メタフィールドは悩みましたね。だから青空の下で戦いを撮ったときは、すごい気楽でしたよ。普通に撮ればいいだけだから、なんて楽なんだろうって(笑)。ゴルゴレムのエピソードなんかは、そうですね。

――ああいった普通の世界での戦いは、視聴者にとっても印象深いものがあるんですが、各回のメタフィールド描写は、どのように差別化を図ってらっしゃったのでしょうか?

岩場だって、凝ればナンボでも凝れるんですよ。でも岩場や砂漠のセットって、広さや奥行きの表現の仕方とかは難しいと思います。そこにこだわると撮りきれなくなってしまいますし、そもそもお客さんが観たいのはウルトラマンと怪獣であって、岩場ではないじゃないですか。だから、背景にこだわるのは程々でいいんじゃない?というのが僕の考え方です。もちろん、スタッフはしっかりとセットを飾って、きっちりライティングしてくれるのでありがたいんですけど、あくまでも背景は背景。作業時間は限られていますから、あるレベルのところで手を止めて次を考えないと。それとメタフィールドには、ウルトラマンの巨大感を表現するための比較対象物がありませんよね。チェスターが入ってくると、その大きさが分かるんですけど。そこはもう、お客さんの脳内補完に頼ろうとしました((笑))。だって、ウルトラマンが大きいことは皆さん分かってるじゃないですか。まあ、そうは思いながらも巨大感は意識して撮っていましたけどね。

――巨大感の演出というと、まさに仰られたように比較対象物を同一フレームに収めたり、あるいは単純にアオリの構図であったり、いろんなやり方があると思うんですが、一方でネクサスは俯瞰で撮られてたイメージがすごく強いんですよね。

むしろセットが狭いので、俯瞰のカットはなるべく避けてたんですよ。そのぶん、ここぞというときに合成の力を借りて、俯瞰の大ロングを作るようにしました。奥行きのある映像表現ができたと思います。たぶん、(俯瞰のイメージが強いのは)印象的なカットが多かったのでは。俯瞰カットではありませんが、オープニングの廃墟で立ち上ろうとするネクサスの姿なども、ビジュアルインパクトが強いようですね。

ネクサスを象徴する「水」

――オープニング映像といえば、カメラ手前で決めてるネクサスのバックでの大爆発が印象的なんですが、ああいうアニメ的なレイアウトが頻出するようになったのも『ネクサス』からだったように思います。

元々、アニメは好きで観てましたし、あの頃は『SDガンダムフォース』の演出とかもやってましたしね。ただ、アニメをなぞったというよりは、単純に僕の好みが反映された結果だと思います。あと、これまでウルトラマンで観たことのない画をやってみたいという想いもありました。それこそ画面の奥で爆発なんて、ヒーローものの作品ではよくあるじゃないですか。たとえば、剣で斬りつけてスッと抜けるとドーン!とかね。でもウルトラマンは、怪獣と対面した状態から光線を撃って倒すので、ドーン!と仕留めたあとにカメラ側に振り向いたりしないといけない(笑)。でも好きな構図ではあったので、この話だったらイケるなとか、オープニングだったら成立するなとか、なんとかそういう画が撮れないかな?と考えて何カットか入れていきました。で、あとから気付いたんですけど、『ウルトラマンマックス』でも『ウルトラマンメビウス』でもやってたみたいで、いつの間にかそれが「菊地カット」って呼ばれたりして、何それ!?みたいな(笑)。でも(Episode.35「反乱 -リボルト-」の)ガルベロスとの戦いなんか、なかなかカッコよくできたなと思ってます。

――メガフラシとガルベロスを相手取った、1対2のハンディキャップマッチで非常に盛り上がるバトルでした。

後ろでハイパーストライクチェスターが分離して、そのまま4機がネクサスを追い越していって攻撃。そこにネクサスが斬りつけて、ガルベロスにとどめを刺す。この一連の流れをやりたかったんです。当時の台本は田舎に送ってしまったので読み返せないんですが、確かホン打ちの段階では、ライターの太田(愛)さんも具体的な仕留め方までは言及してなかったんじゃないかな? で、こういう倒し方にしたいんだと僕のほうからプレゼンして、監督の阿部(雄一。現・アベユーイチ)さんにも納得していただき、決定稿に反映してもらったと記憶してます。ネクサスって、人知れず戦うウルトラマンでしたし、序盤は隊員に攻撃されたりもしてたので、どこかで隊員たちとウルトラマンが一緒になって怪獣を倒すシークエンスをやりたいと思ってたんですよ。

――その直前の、ネクサスがパワーボムやランニング・ネックブリーカー・ドロップを決めるくだりもインパクトがありましたね。

死んじゃうよ、これ!っていうね(笑)。いつかやりたいと思ってた共闘回だったので、より視覚的に派手に持っていこうと、僕なりにいろいろとアイデアを出して構成していきました。一連のプロレス技もそうです。胸のすくバトルシーンに仕上げることができて、満足しています。夕景も綺麗でしたね。完成映像を観た太田さんには、お礼を言われましたよ。

――あのバトルは満を持しての市街戦、しかも夕景ということで印象に残ってるファンも多いと思いますが、現場の反応は如何でしたか?

どうだったかな? いつも通りだった気がしますけど(笑)、僕は燃えてましたね。でもメタフィールドの撮影を続けてると、スタッフの目も疲れてくるんですよ。ずっと岩場でフォグを撒いて、1カット終わる頃にはセットの中が真っ白になって、そしたら換気して、煙が落ち着いたらもう1カット撮って……というのを繰り返してるので、メンタル的にもどよんとした感じになってきてしまうし、そういう意味では久々の市街地戦を楽しんでた部分もあったかと思いますね。

――ちなみに夕景カットというものは、ロケでなくセットであっても手間が掛かるものなんですか?

はい。ライトチェンジの作業って、準備も含めて時間が掛かるので、シリーズ中にそう何度もやれることではないんですよ。夕景を撮ったら、またデイ(昼)やナイト(夜)に戻す作業をしないといけないですから。でも僕自身、夕景を撮るのは大好きです。『ゴジラ×メカゴジラ』でもやりましたし、『マックス』のメトロン星人や『ULTRAMAN』の最後の戦いもそうでした。夕景って、なんともいえない気持ちになりますよね。あと、『ネクサス』だと、ぐんぐんカット(巨大化)も好きでした。あれは背景に水の表現を使ってるんです。なにか拠り所になるものがひとつ欲しくて、ちょっと幻想的な雰囲気を狙ってみました。昔の『ウルトラマンタロウ』でも、ぽちゃーん!みたいな表現をやってたじゃないですか。

――ミルククラウンを重ねたようなエフェクトを背負って登場しますね。

最初の生き物は海から生まれてきたっていうところから発想していって、光線技とかスタイルチェンジの合成にも水の素材を使ってます。だから『ネクサス』といえば、水ですね。泡がはじける効果音なども、入れてます。

――ほかにも記憶に残るカットやシチュエーションはありますか?

これも阿部さんの回だったかな? 山の中でゴルゴレムと戦うナイター(Episode.20「追撃 -クロムチェスターδ-」)なんですけど、飛んできたネクサスが着地したあと、カメラが俯瞰になってぐーっとバックしていくと、奥に街の灯りが見える。ウルトラマンは、この人たちの生活を守るためにいるんだよ。たったひとりで、この光を背負って戦っているのが姫矢なんだよってことを、言葉を使わないで表現できたカットなんじゃないかなと。自分でもいい画が作れたなと思ったのを憶えてます。あと、うまくいったなと思ったのは……ネクサスと孤門がアイコンタクトして、一緒にラフレイアを倒すところ(Episode.10「突入 -ストライク・フォーメーション-」)ですか。本編と特撮が独立してない感じで、どっちも同じ監督が撮ってるんじゃないの?って思ってもらえたらいいなと。阿部さんともしっかり打ち合わせして、一応、僕のほうが向こうに寄せました(笑)。でもいろんな監督さんと組ませていただいたので、本当に勉強になりましたね。

――最終回も阿部さんでしたね。どんどんスタイルチェンジしていき、最終的にウルトラマンノアへと至るくだりは非常にカタルシスがありました。

最終回のホンはちゃんと残してあって、田舎に帰ったときに読み返したりするんですけど、すごい量の書き込みなんです。いつか皆さんにお披露目する機会があったらいいなぁ。台本の空欄だけだと足りなくて、さらに短冊まで作って書き込みしてるんですよ(笑)。だから、自分なりに一生懸命考えて撮ってたんだなと思いますね。ドラマの流れを損なわないよう、なるべくスタイルチェンジが自然な流れに見えるようにバトルを構成していったんです。無理やり赤から青に変わってるように見えたらイヤだったので、「そこで変わるんだ……いいね!」って、お客さんに納得してもらえるような必然性を大事にしようと気をつけてました。あと、どこまで伝わったか分かりませんけど、自分はウルトラマンを撮るとき……特にネクサスを撮るとき、青いネクサスは憐、赤いネクサスはそこに姫矢がいるんだと思いながら撮ってました。姿かたちは違うけど、ここにいるのは姫矢なんだと。もちろん、最終回で孤門が変身したときも、それまでのネクサスとは雰囲気を変えて、ちゃんと孤門ならこうだろうなと考えながら撮ってました。それは演じる寺井(大介)や岩田(栄慶)、山本(諭)くんとも話し合って、イメージをすり合わせてましたね。

――なるほど。ノアに関しては如何でしたか? 最強のウルトラヒーローという話題になると、未だに名前が挙がるほどの大活躍でしたが。

ワンパンで宇宙までザギを飛ばしますからね(笑)。僕の記憶では、あれはホン打ちのときに板野(一郎)さんが提案されたアイデアだったと思います。もうここまでやれば誰も勝てないだろうという最強感を目指しました。ザギの攻撃を寄せつけず、何もかも力強く。短い出番のなかで、圧倒的強さを表現できたと思います。あと、ノアになってからは重量感を意識して、ちょっとだけハイスピードにもして、ズシッ! ズシッ!と歩いてる感じにしたんです。

ドキドキワクワクできる仕事

――当時、板野さんの参加は非常に大きな話題となりましたね。

板野さんとのお仕事は、映画の『ULTRAMAN』のほうが先だったんですが、『ネクサス』にも参加していただけるということで、これは新しい画作りに挑戦できるぞと。テレビシリーズのウルトラにおける表現の仕方って、やっぱりあそこで大きく変わったと自分では思ってるんですよね。ひとつは映画でもやったフルCGの空中戦ですが、あれは『マックス』『メビウス』と続いていったじゃないですか。そこは自分たちが変えていったんだという感がありますね。やっぱり誰かがやりたいと言わないと始まらないですから。で、そういう狼煙上げも監督の仕事のひとつだと思うんですよ。

――映画『ULTRAMAN』についての思い出もうかがえますか?

監督の小中(和哉)さんと一緒にロケハンに行って、新宿の実写合成用の撮影ポイントを、一緒に探して回ったのを憶えてます。というのも……新宿の街並みを壮大なミニチュアセットで組むっていうのが、あのときの予算だと現実的じゃなかったんですよ。だからスチール素材やムービーで撮った実景に、グリーンバックで撮った怪獣を合成することにしました。ちなみに新宿のスチール素材は、スチールマンと私とで撮りに行ったんです。

――これまでにないリアル路線のウルトラでしたが、必然的に特撮に課されるハードルも高いものになっていたんじゃないかと。

最初の10メートル級のアンファンスとザ・ワンの戦いは、実際に精巧なミニチュアセットを組んでもらったんですが、ロケーションからミニチュアセットに切り替わったタイミングが分からないよう、自然と流れるようなカット割りを考えていきました。あと、撮影の大岡(新一)さんの案で、ちょっとずつ明かりを落として暗くしてるんです。投光器が壊れて暗くなったけど、でも真っ暗でもないというシチュエーション。これはうまく繋がったら面白いぞと思いましたし、ちゃんといい感じに仕上がりましたね。ウルトラ映画は本編と特撮を一班で撮影しているので、ロケのときのライティングを分かってる撮影部、照明部がミニチュアのライティングもやってるんですよ。それがよかったんだと思います。狭いセットで戦いを撮りながら、大映の『ガメラ3(邪神〈イリス〉覚醒)』で助監督をしたときのことを思い出したりして。京都駅のセットもせまくて大変だったなあ、と。『ULTRAMAN』のときに今くらいCGが使えたら、もっといろんなことができただろうけど、自分としては限られた条件の中で精一杯のことをやれたと思ってます。ただ、ここで精巧なミニチュアをがっつり作ってしまったので、プロデューサーの鈴木(清)さんと美術の大澤(哲三)さんから「新宿のセットはないよ?」って言われて、さっき言ったように実景合成メインになっていったというわけです(笑)。さすがに何もないと辛いので、新宿中央公園だけちょこっと作ってもらいましたけど。

――ものすごい極端な逆光の画なんかも入ってきたりして、いろんな見せ方を試みられてましたね。

ありました、ありました! あれも写真との合成ですね。あとから光を足したり、太陽を作ってフレアを入れたり、あんなふうにスチール素材との合成を多用する作品って、それまであんまりなかったんじゃないかと思います。まさに新たなるチャレンジでした。でも小中さんや板野さん、みんなでアイデアを出し合って、力を合わせることができたので、それでひとつ大きな自信ができたんですよね。実写の日本映画だって、こういうやり方でできるんだぞと。

――では、きくちさんご自身にとってもターニングポイント的な作品になるんですかね。

『ULTRAMAN』を撮ったときは、『ゴジラ(×メカゴジラ)』を撮ったときと違う緊張感がありました。もちろん、どちらもプレッシャーはあったんですけど、『ULTRAMAN』は打ち合わせの段階から精神的に不安定になってました。やっぱり新しいことをやらなくてはいけないという使命感が強かったように思います。それこそ鈴木さんにね、どのタイミングだったかは忘れちゃいましたけど、「これまでと同じじゃ駄目だよ?」って言われて、「分かってますよ、それは!」って返したのを憶えてます(笑)。そういえば、鈴木さんもアクションの編集とか見にいらしてましたね。

――実景合成メインの画作りをはじめ、これまで積み重ねてきたノウハウの延長線上にない作品だったからこそ、皆さん燃えてらっしゃったんですね。

そういうことだと思います。ウルトラマンにしろゴジラにしろ、お客さんにドキドキワクワクして欲しいじゃないですか。観終わったとき、また観たいと思ってもらえるような作品を生み出したいなと。で、お客さんにそう思ってもらうためには、先ず自分かドキドキワクワクしなきゃダメなんです。やっぱり自分がOKを出せないものを人に見せられないですから。そういう意味では『ULTRAMAN』も、『ネクサス』もドキドキワクワクしながら作ってましたね。

――ノアは、映像作品で使われることを前提としていないデザインでしたが、実際に撮られてみて如何でしたか?

まずアップ用としてメッキが施されているようなキンキラスーツがあるんですけど、あれだとセットとかカメラマンが映り込んでしまうので、マットな感じのシルバーで塗られたほうのスーツを使ったんですよ。背中のノア・イージスに関しては、地面を転がったりしなければいいだけなので、そんなに大変ではなかったです。もう1クールくらいあったり、登場シーンが長かったりしたら、普通にアクションをやったり、ザギと空中戦を展開することもあったかもしれないですけど、あのときは限られた時間の中で最強に見せなきゃいけなかったので、それが逆によかったというか。ノアは膝をつかないですから。でもアトラクションショーとか見ると、あれで普通に転がってたりするからすごいですよね(笑)。

――ザ・ネクストとネクサスに関しては、どんな感想を持たれましたか?

最初に現場で見たのはネクストのほうでしたけど、それまでにない外骨格っぽいデザインが面白いなぁと思いましたね。ネクサスは、デザイン段階で何パターンか見せてもらったかも。でも丸山(浩)さんのデザインにNGを出すというか、ここがこう違うみたいなことを言った記憶は全然なくて。ネクストは造形のとき、「あんまりデブった感じにならないようにしてね」とお願いはしましたけどね。しかしネクサスで面白いのは、やっぱり頭のデザインですよ。これはなんて言えばいいのかな?

――兜……ですかね?

前面のひさしから後頭部へと続く兜のような形状とか、ホント、ウルトラマンとして唯一無二のデザインだったと思いますよ。粘土原型ができたとき、どこから見てもカッコよかったので、早く撮りたいなぁと思ったのを憶えてます。

――まさにこの兜のような部分がアクセントになってて、アオリで撮っても俯瞰で撮っても絵になりますよね。

アングルを選ばせないデザインだったので、撮るほうとしては楽させてもらいましたよ(笑)。当時、開米プロにいた香西(伸介)さんという方がネクサスやメフィストのほうの造形リーダーをやってたと思うんですが、香西さんとも揉めたことがなかったですね。ネクサスに関しては、デザインも造形もよかった。陣羽織みたいな甲冑もついてて、これがまたすごい素敵だなと。ただ、ウルトラマンの飛行ポーズをとるとき、あの肩が少し邪魔だったんです。なのでネクサスは、腕を前ではなく後ろに流す飛行ポーズにしました。先に製作したネクストも腕を後ろに流して飛んでましたから、そこに合わせる意味もありましたね。

――で、こちらがノアとザギです。

すごい、すごい! これは完全に寺井(大介)と岩田(栄慶)ですね。プロポーションが抜群にいいですよ。実際のスーツをそのままスケールダウンしてるように見えます。でもフィギュアって、本当にそっくり作っちゃうと、逆にやり過ぎだと思われちゃうころもあるでしょう?

――サイズ差のせいか、ディテールがうるさく感じられたりするんですよね。

そうそう、そっくりなのに印象が変わったりするので、適度なアレンジが必要なんでしょうけど、その塩梅が難しい。でもこれはカッコよくできてますよ。しかもエナジーコアって、普通のカラータイマーと違って発光部が大きいじゃないですか。胸を半分くらい覆ってるデザインなので、こうやって実際に光ってるのを見ると感慨深いものがありますね。

ウルトラマンノア ダークザギ

ウルトラマンノア ダークザギ

――ちなみにザギは、発光ユニットを仕込むうえで絶妙なポージングだったそうです。もう少し捻ってたりしたら入らなかったと(笑)。

ハハハ。もちろん、そんなことまで考えてたわけではないですけど、岩田に「こんな感じでやって」とポーズの指示を出したことを思い出します。しかし、ノアはフィギュア映えするなぁ。やっぱり映像を度外視した要素が、ノア・イージスが効いてますよ。ザギと背中合わせにして飾ってもカッコいいかもしれませんね!

きくち雄一監督談

■きくち雄一
1970年生まれ 岩手県出身
フリーランスの助監督として『ウルトラマンゼアス』(96)より円谷プロ作品に参加。『ガメラ3』(99)『ゴジラ×メガギラス』(00)等でも特撮班の助監督を務め、『ゴジラ×メカゴジラ』(02)で特殊技術(監督)となり、以降は『ULTRAMAN』(04)『ウルトラマンネクサス』(04)『ウルトラマンマックス』(05)『ウルトラマンメビウス』(06)等の作品で特技監督を担当。『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』(07)等では本編演出を含めた監督としても活動し、近年は舞台やドキュメンタリー等の演出も手掛けている。短編作『英雄のメロディー』(22)は、クロアチア第1回日本映画祭監督賞を受賞。『仙川映団』代表。

■聞き手: ガイガン山崎