――セキさんは、アルティメットルミナスシリーズの初期から原型担当として関わられていたそうですが。
セキ 当時のHGシリーズ開発担当者から「発光するHGシリーズを作りたいんですけど、どう思います?」みたいな話を持ちかけられたのが最初だったと思います。HGシリーズを発光させるというアイデア自体は、もっと前から何度も出てはいたんだけど、そのどれもが実現には至らなかったんですよ。
――どこまで発光ユニットを小型化できるかが重要になってきそうですね。
セキ そうそう。僕も「HGシリーズは小さいから無理だと思いますよ」なんて返したんじゃなかったな? でも彼は最後まで諦めず、どのキャラクターにも仕込める汎用性の高いルミナスユニットを作り上げたんです。まあ、大したもんだなと思ったけど、当時としてはあれが小型化の限界だったので、それに合わせるためにフィギュアも大きくなったというわけですね。
――原型を手掛けるうえで、アルティメットルミナスシリーズならではの難しさはありますか?
セキ 発光させるために目がクリアパーツになっていて、マスクとパーツ分割しなくちゃいけないところですかね。分割そのものは、僕の原型をスキャンしてデータ上でやってもらっているんですけど、商品になったときに原型からそれぞれ収縮するし、パーツ接着時にわずかなズレが生まれることもある。その0.0何ミリの誤差で印象が変わってきちゃうんですよ。原型がうまくできたからって、そこで安心することができないシリーズではあるかと思います。
――特に人気のあるキャラクターだったりすると、ファイティングポーズと必殺技みたいな感じで複数のバージョンを作られることもありますよね。
セキ ちょこちょこやっていますね。腕換装でできる場合もあれば、完全新規造形のこともあるんですが、換装は換装でなかなか大変なんですよ。最初から換装を想定していれば、それぞれの肩の位置だったり腕の伸ばし方だったり、両立できる分割位置を考えたりすることもできるんですけど、それでも初代ウルトラマンは結構難しいかな。ウルトラマンって、かなり肩を入れ込んで光線を撃ったりするので、あとからポーズを変えにくいんですよ。実際、ウルトラマンのBタイプは、最初に作ったスペシウム光線が換装をまったく想定していなかったこともあって、のちにファイティングポーズを出すときに一から作り直しています。逆に帰ってきたウルトラマンは、そんなに大きく姿勢を動かしたりしないファイティングスタイルなので、あとからウルトラブレスレットのポーズをスペシウム光線に変えたりすることもできたんです。
――なるほど。そろそろ本題のULTRA N PROJECTの話に移っていきたいんですが、改めてアルティメットルミナスのラインナップを振り返ってみると、最初のウルトラマンネクサス ジュネッスが出たのは2018年発売の「アルティメットルミナス ウルトラマン06」なんですね。もう7年も前のことです。
セキ 確か、レオのファイティングポーズと同じ弾でしたよね。昭和ウルトラマンは順番どおりに出ていたんですけど、平成のウルトラマンはバラバラなんですよ。だからネクサスに関しては、僕のほうから商品化したいと提案したんじゃなかったかなぁ。『ウルトラマンネクサス』、大好きなんですよ。ドラマも面白いけど、とにかくネクサスのデザインが好きなんです。すごく個性的で唯一無二のカッコよさだと思いますよ。
――で、だいぶ間は空きましたけど、昨年の「アルティメットルミナス ウルトラマン20」でアンファンス、「アルティメットルミナス ウルトラマン21」でジュネッスブルーと続き、プレミアムバンダイでウルトラマンノアとダーグザギのセットが発売されました。
セキ 打ち合わせ中、「来年で20周年だから、ネクサス周りの補完をやりたいね」という話になりまして。翼のあるノアはカプセルに入らないので、ザギとのセットでプレミアムバンダイでの発売になりましたが、好評だったみたいですね。やっぱり熱気がありましたよ。
――ちなみにザギとノアは、一部原型を共有していたりするんですか?
セキ 頭だけ同じで、あとはすべて別造形です。ノアとザギって、デザイン的には翼とストライプ模様の有無以外は同じような感じなんだけど、造形物としては結構違うんですよ。ノアはきっちり全身着ぐるみになっているけど、ザギのほうはウェットスーツ感が強いんですよね。僕も今回、じっくり写真や映像を確認していて気付かされました。
――そして、いよいよ最後のピースであるウルトラマン・ザ・ネクストが発売されます。先ほど、ウルトラマンはシンプル故に難しいという話がありましたけど、ネクストは複雑に入り組んだ造形ですね。
セキ ええ。でも複雑な造形にもいろいろあって、いわゆるメカメカしいテイストのものは、自分みたいなアナログの手原型が不得手とするところなんですが、ネクストは生物的な質感じゃないですか。こういうのは人間の素体を作って、そこに怪獣の皮膚感を足していくような作り方になるので、わりと得意な方向性のものなんですよ。ただ、やっぱりウルトラマンはウルトラマンなので、ちょっとのズレも許されないような難しさはあって、そこは苦戦しましたね。
――個人的に、ネクストといえばこれ!みたいな印象があまりないんですが、それぞれポーズはすんなり決まったんですか?
セキ いや、これまでで一番悩みましたよ。仰るとおり、ほかのウルトラマンみたいに決めポーズがあるわけでもないですからね。で、ジュネッスに関しては、劇中で何度もやってたりはしないものの、スチル写真とかで目にする機会が多いポーズがあったので、それが良いかなと。ただ、同じようなポーズを収めたスチル自体は何枚もあって、実はもうちょっとケレン味のあるポーズもあったんですが、そこは敢えて少し力が抜けたような感じのポーズを選びました。フィギュアとして見てて飽きないのは、そっちのほうなんじゃないかと思ったんです。
――ネクストは飛行シーンが印象的ですけど、ひとりだけ飛行ポーズというのも変ですしね。
セキ 昔、H.G.C.O.R.E.(「NEXT 天空の覇者編」。2008年発売)でネクストをやったときは、まさに飛行ポーズでしたね。余談だけど、あれも厳密には飛んでるところじゃなくて、ふわっと飛び上がる瞬間を切り取ったポーズなんですよ。ピンと腕と足を伸ばしてる状態だと、いまいちフィギュアとしては味気ないなと思って、僕の判断でちょっと片膝を曲げてるようなポーズに変えちゃったんですが、担当さんも「確かにこっちのほうがいいですね!」って通してくれたんです。
――ネクスト、ネクサス、ノアと、これまでに出たルミナスを並べて飾ったら壮観でしょうね。
セキ うん、自分としても感慨深いものがありますよ。ここに怪獣もいれば、なおいいんだけど。それこそザ・ワンとかね! もちろん、今回のネクスト次第だとは思いますが、いつかダークファウストやメフィストも作ってみたいなぁ。
――N PROJECT周りに限らず、まだルミナス化されてないキャラクターは残ってますしね。
セキ ウルトラマンキングとかね! 『(ウルトラマン)USA』の3人もやってないし、サブウルトラマンまで広げていけば、もっともっといるでしょう。怪獣だって、あのサイズで立体化されてない人気怪獣はいっぱいいますから。自分も10年やってきて、いろいろとわかってきたこともあるし、デジタルスキャンのノウハウも貯まってきてるだろうし、シリーズ初期に手掛けたものをリメイクしてみたい気持ちもあるんです。そうそう、2016年にスタートしたシリーズだから、来年で10周年なんですよ。でも、まだまだ面白いことがやれるフォーマットだと思うので、これからもアルティメットルミナスシリーズを応援してくれたら嬉しいですね。
プロフィール
原型師:セキケンジ
1968年4月23日生まれ、長野県出身。
中学生の頃より石粉粘土を用いた造形を趣味として始める。
現在はヒーローや怪獣を中心に、フリーの原型師として活躍中。